最近、書店に行くのが、少し億劫になっている。
ネットのおかげで、ちょっと知りたいという程度の情報や知識ならば、検索によって余分な手間をかけずダイレクトに手に入るいうこともある。
あるいは、書店というところが、店舗の大型化によって置いてある本がかなり増えていて、選べる自由もあるけれども、選べることでの負担が増えている感じがすることも原因かもしれない。

目的の本を探すのは大変だし、関連する本も多過ぎてなかなか選べない。

書店という場所が、徐々に私のキャパシティを超えた場所になってきている感じがするので、あまり目的を決めず、時間も割かないようになってきた。

しかしそれでもチラッと視線に止まり何気なく手にとる一冊はあり、そういう本は、もう自分で選んだという気がしない。
神様が出合わせてくれたような感じに思えるのかもしれない。

先週の日曜日にもそういう出合いがあって、ヤマト運輸の経営者として、宅急便というサービスを生み出した小倉昌男さんの評伝である「祈りと経営」という本を買った。
祈りと経営 
どちらかというとビジネス書に分類され、前半はヤマト運輸や福祉財団についての話が主となるが、小倉昌男という人の実像を明らかにしていくなかで、次第に小倉家の「家族」の話に舞台が移っていく。
その展開に引き込まれて、2日で読んでしまった。

ノンフィクションでありながら、ミステリアスな展開ゆえにドラマティクな「物語」になっている。

小倉昌男さんの人生は、ビジネスの世界における優れた経営者としての成功と評価実績とは裏腹に、家庭においては大変重い苦悩を背負っていた人生でもあったことを知った。

その苦悩に真正面から向かい合ったという事に対して、優れた経営者としての姿以上に、その誠実な姿勢に大変な尊敬を覚えた。

権力が嫌いで、企業経営でも福祉財団でも常に弱い立場の側に立って事業を進めている。

小倉さんはカトリックで、福祉財団への巨額の寄付は、弱者に目線を向けるキリスト教の影響が、実践のための動機になったように思う。
もともとキリスト教の別会派ではあったようだが、奥さんの影響を受け転会されている。

ネットサーフィンで、いろいろなブックレビューを読んだが、この本は読後の印象の大きさを伝える投稿が多い。
しかし様々な受け止め方がされていて、小倉さんの苦悩の重さに対し「仕事では成功しても家庭では失敗」いう表現をする人もある。
小倉さんの家庭における苦しみに対し、あたかもその苦しみを取り除くことができるものであるかのように「失敗」という表現をしてしまうのはどうなのだろうか。

なかなか受け止めることができないことだけれども、人生に於いては、何の落度がなくても取り除くことができない苦悩や苦しみを背負わなければならない場合がある。

聖書における旧約聖書のヨブ記や、私のあとに従おうと思うなら、自分を捨て、日々自分の十字架を背負って従え」(ルカ9:23)というキリストの御言葉を、おそらく小倉さんもまた、思い浮かべることが少なくなかっただろう。

そういった苦しみに、どう向き合うかで生き方も変わるし、人生もまた変わるものであるということを、小倉さんはご自身の生き方を通じて多くの人に教えてくれているようにも感じた。 

重い内容だけども、一気に読み終えることができたのは、著者である森健さんの、ストーリーとしてまとめる構想力や文筆力の巧みさがあるが、当事者の家族の証言を載せる取材力も凄いと思った。

苦しんだ当事者が心を許してインタビューを受けるほどの信頼感が生まれた背景には、森さんのジャーナリストとしての姿勢に、誠実さを感じるところがあったのだろう。

登場人物(証言者)が多く、人物を錯綜してしまうところがあったが、強い印象を残す本だった。

著者の森さんは「世を見回せば、似たような境遇の人はいくらでもいるはずだ」とあとがきでふれている。
小倉さんの苦悩は、現代に生きる多くの家族と共通する苦しみなのかもしれない。

小学館ノンフィクション大賞を受賞している。
賞の歴史上初めて選考委員全員が満点をつけて受賞したらしい。

私もこの本は、多くの人にお薦めしたい。